東京高等裁判所 昭和51年(ネ)409号 判決 1977年2月22日
控訴人
島津みよ子
右訴訟代理人
大石力
外一名
被控訴人
原田隆一
右訴訟代理人
石田恵一
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実《省略》
理由
一控訴人の本件土地所有権に基づく請求について
(一) 被控訴人がさきに浜松簡易裁判所に対し、訴外長谷利光を被告として、原判決別紙目録記載の建物(以下本件建物という)を収去して同目録記載の土地(以下本件土地という)の明渡を求める訴を提起し、同訴訟において被控訴人の請求を認容する判決が言渡され、同判決が確定していることは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば右判決は昭和三九年七月五日に終結した口頭弁論に基づくものであり、また同訴訟における請求は、本件土地の所有権に基づくものであることが明らかである。
(二) ところで、控訴人は、被控訴人が右確定判決に基づき右訴外長谷に対する強制執行をしようとするのに対し、先ず第一に、右判決の口頭弁論終結時以前から引続き現在に至るまで真実の土地所有権者は控訴人であり、被控訴人には本件土地所有権が帰属していないということを理由に、右強制執行の不許を求めるのであるが、控訴人の右主張は、その主張自体において理由がないと言わなければならない。けだし、民事訴訟は原則として二当事者対立構造をとつて私権に関する紛争を当該訴訟当事者間で相対的に解決する制度であるところ、前記判決の確定により訴外長谷は被控訴人の土地所有権に基づく明渡請求に対し自己所有の建物を収去して該土地を明渡すべき義務が確定しているのであるから、右両当事者外の第三者たる控訴人としては、右訴訟の係属中に独立当事者参加の手続をして右訴訟内で被控訴人との間で本件土地所有権の帰属を争つてこれを決しておかないかぎり、後になつて実は自分こそが土地所有権者であると主張することによつて、被控訴人の右確定判決による執行を妨げることはできないと言わなければならない。更にふえんすれば、「建物収去土地明渡」という強制執行の場合、執行の目的物は建物と土地の二者があるが、建物についてはそれが除却撤去されようとするのであるから、もし第三者にして該建物につき所有権を有するときは、該建物が執行債務者の責任財産を構成せず、且つ第三者自身の権利が害されることとなるので、茲に第三者異議の訴を提起できる所以が存するのであるが、土地については、それが執行債務者の責任財産がどうかという点は問題外である。けだし右強制執行によつては単にその占有を引渡すべきことが強制されるにすぎず、したがつて仮に真実の所有者が他に存在していることがあるとしても、その第三者の所有権自体は、右引渡の強制執行によつてはいささかもその権利を害されることがないからなのである。もし右第三者が該土地を所有しているが故にこれを占有しているような場合においてこそ、そこで初めて右土地占有権が害されるという理由によつて、右第三者として執行異議を主張することができるにすぎない。
(三) のみならず、本件において控訴人が本件土地所有権を取得したとするその原因事実は、これを認めるに十分でなく、この点に関する認定判断は、<訂正、付加省略>原判決の理由と同一であるから、これを引用する。
二控訴人の本件土地占有権に基づく請求について
控訴人は、本件土地を訴外長谷に対し建物所有の目的で使用させているから、右訴外人の直接占有を介して本件土地を間接に占有していると主張するが、<証拠>によれば、訴外長谷は、控訴人の弟であつて、昭和二一年南方から引揚げて来たが住居に困り、昭和二二年頃控訴人の了解のもとに本件土地上にバラツク的な本件建物を建てて爾来居住しているが、控訴人に対し本件土地の地代を一度と雖も支払つたことはなく、実際は控訴人において訴外長谷に対し本件土地を贈与したと思つていることが認められ、また当審における控訴人尋問において控訴人は終戦後自分の親族で住居に困つている者に本件土地を含む附近の土地を「貸したり呉れたりした。」旨供述しているので、これらに徴すると、控訴人と訴外長谷間の本件土地の貸借ひいては控訴人の本件土地占有の事実はこれを認めることができず、この点に関し右と反する趣旨の<証拠>は、いずれもこれを信用することができない。
三以上のとおりであるから、控訴人の本件請求は理由がなく失当であつて、同請求を棄却した原判決は、結論において正当である。
よつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用は敗訴当事者の負担とし、主文のとおり判決する。
(菅野啓蔵 舘忠彦 安井章)